HOW TO・・・
海堂センパイの場合![]()
また、部活終了後のクラブハウス・・・
リョーマがクラブハウスに戻ってきた時はすでにあらかた人が去った後で、先輩の海堂が帰り支度を整えているのみであった。
「お疲れっす。」
こちらをちらりとみた海堂に一応声はかけるが案の定返事はない。
自分としてもそれを期待しているわけではないので、そのまま自分のロッカーへと向かいこちらも帰り支度を始めるべくジャージの上着を脱ぐ。
と、それを脱いだ拍子にポケットに入れていたボールが落ちて床に転がった。それを拾おうと屈んだリョーマの目が部屋の片隅に何気なく落ちている“それ”を発見する。
“?”
歩みより、腰をかがめて“それ”を拾い上げたリョーマは物珍しそうにその拾い物に見入った。
「何だ?」
部屋の片隅に立ったきり動かない後輩に海堂が訝しげな声を上げる。
「・・・これ、海堂先輩の・・・すか?」
そう言って自分を振り返ったリョーマの指先にひらひらと踊る小さな正方形の銀色の包み。
「ばっっ、お前、何持ってるんだ、越前!!」
初めは“それ”が何だかわからず小首を傾げた海堂だったが、ややあって息を飲み、声を荒げると、海堂は光速の勢いでリョーマの手から“それ”を引ったくった。
一応、コイツは生意気とはいえ年下の後輩だ。自分の弟と同じ年でもある。そんな彼がこんな物を持つのは早すぎる。断じてダメだ!いかんっ!!
生真面目な彼の頭を否定語がぐるぐる駆け巡るのをよそにリョーマがのんびりと声をかける。
「・・・やっぱりそれ、先輩の??」
「違うっっ!!」
海堂は手の中のものを握りしめながら力の限りの声を上げる。
「・・・そんな大声上げなくても聞こえますって。」
怒鳴るような勢いでそう否定する海堂にリョーマは眉をしかめた。
「じゃ、誰が落としたんだろ??」
「大体こんな物をお前が持つのは早すぎる!」
「・・・だからそこに落ちてたんですってば。」
すっかり頭に血が上ってしまっている海堂にリョーマが肩をすくめる。
「それにそんなに気を使ってもらわなくてもいいっすよ?あっちの学校では授業の一環で配ってますから。そういうの。」
しれっとそう言うリョーマに海堂は目をぱちぱちさせた。
「そういうの・・・ってお前これが何か知ってるのか?」
「一応。・・・それ、ゴム・・・コンドームっしょ?」
「!」
案外そういうとこはこっちより進んでますよ?と照れるでもなくそう言ってリョーマは固まる海堂を見る。
「・・・じゃあ何であんなにじっと見てたんだ?」
・・・ややあって平常心を取り戻すべく海堂はそんなリョーマを見つめ返す・・・いや、端から見れば睨みつけているように見えるかもしれないが。
でもそんな視線にもリョーマは全然平気なもので。
「いや、サイズが小さいな、と思って。」
「・・・・・」
そう言えばコイツは帰国子女だったな・・・と頭の片隅で考えつつ海堂はこの口の減らない後輩に眉を寄せる。
「・・・やっぱり使わないとダメなもんなのかなぁ。」
頭の後ろで腕を組み、ふっと思いついたようにそう言ったリョーマの言葉に海堂が目を見開いた。
「いいかげんな事を言うな!」
その声にびっくりしたようにリョーマが海堂を見上げる。
「お前も男だから、いずれ、その・・・そういう事はするだろう。でも、男には責任、ってものがあるんじゃねぇのか?」
「責任・・・すか?」
そう言い切った海堂に目を丸くするリョーマ。
「自分を信頼してくれる人間にはそれ相応の態度があるだろう?」
「・・・はぁ」
「そんな相手に余計な負担や心配をかけさせるのはよくねぇ。」
「・・・・・」
・・・えらく真面目な話になってきたのにリョーマは頭をかきながらふと何を思いついたのか、からかうような笑みを浮かべ口を開く。
「でも、してるのとしていないのとではやっぱ感じ方が違うらしいっすよ?・・・そういうのってどうなんすか?」
「!え、越前!!」
案の定、真っ赤になり、目を剥いて声を荒げた海堂にリョーマはくすりと笑う。
「言ったでしょ?オレだってそんなに子供じゃないっすよ?」
そんな海堂に肩をすくめリョーマは笑いを含んだ目で彼を見上げる。
「興味はありますよ。そーいう事。・・・オレ、好きな人もいるし。」
この先輩がどんな反応をするか半ば面白がるようにリョーマはそう切り出す。
「やっぱその人とはしたいしね。」
「・・・オレもその気持ちはわからないでもない。」
ややあって海堂が軽いため息をついた後でそう言ったのにリョーマはちょっと目を見開いた。
「でも自分の気持ちだけで軽率な行動をするのは・・・あまりいいことじゃねぇ。」
「はぁ・・・」
「それに、そういう事は相手の為だけじゃない。自分の為にも大事な事だ。気持ちいいからとか面倒だとかで手を抜いていいこととは思えねぇしな。」
「・・・・・」
意外に常識人な海堂の一面を見せられ、ただ目をしばたくリョーマ。
「お前の好きな奴がどんな奴かは知らないが、お前がもしホントにそいつを好きだったらそういうことも考えてやってもいいんじゃねえか?」
「・・・そうっすね。」
ややあってそう素直にリョーマが頷く。
「・・・でも心配はともかく、やっぱ男の場合もしないと負担になるのかな?」
「?」
自分の言葉に目をしばたく海堂にリョーマがさり気なく付け加える。
「男の場合っすよ、相手が。」
「男?」
海堂がリョーマの顔をまじまじと見つめる。
「お前、男・・・って、その・・・」
「オレの好きな人って男っすけど?」
恐る恐ると言ったように自分にそう聞いてきた海堂にあっさりとリョーマは言ってのけると、その一言に声も出ないくらいに驚いている海堂に向かってくすっと笑う。
「大丈夫っすよ。海堂先輩じゃないから。」
そんな事を保証されても・・・と心の片隅で突っ込みながら海堂は驚きの目のままリョーマを見つめる。
「・・・で、その相手とはお前、付き合って・・・るのか?」
「一応ね。」
ややあって、つっかえつっかえそう聞いた自分の言葉にいとも簡単にそう言ってのけたリョーマを海堂はまたまた驚きの目をして見つめる。
「・・・越前。」
「何すか?」
「お前はその・・・男が好きだって事に抵抗ないのか?」
「抵抗?何が??」
今度はリョーマは小首を傾げてそんな海堂を見る。
「好きになった人がたまたま男だってだけですからね。そういう事は思わないっすけど?」
「・・・・・」
考えるまでもなくそう即答してきた後輩を海堂はじっと見つめる。
「先輩はそういうのこだわるんすか??」
「・・・いや。」
そんなリョーマに海堂が首を振る。
「お互いが好きならば構わないと思う・・・オレは。」
「・・・」
「好きになっちまったら常識とかそういうのはどうでもよくなるんだろうしな。」
「へぇ・・・」
てっきり“普通”にこだわるかと思っていた海堂が見せた“柔軟さ”にリョーマは目を軽く見開いて彼を見る。
「先輩も好きな人、いるんすか?」
その少し意味ありげな海堂の態度に興味を抱いたリョーマが半ばからかうような口調でそう問いかける。
「・・・まぁな。」
・・・今日はある意味驚きの連続だ。てっきり怒鳴るか黙殺するかのどちらかだと思っていたのに、言葉少なではあるが自分の問いに海堂がそう素直に答えた事にリョーマは目を丸くする。
「ふぅん・・・で、誰なんす?先輩の好きな人って。」
「・・・お前でない事だけは確かだ。」
でもさすがにそこまで言うほど素直ではないらしい。じろり、と自分を睨んでそう続けた海堂に、リョーマは軽く目を見開いてくすり、と笑う。
「言うじゃん。先輩も。」
「ホントの事だ。」
いつもの海堂らしい素っ気無い言葉がこの場では何とも可愛らしく聞こえ、リョーマはちょっと笑って肩をすくめる。
「で、その・・・お前達、したのか・・・?」
帰り支度をほぼ整え終える頃、背後で聞こえた声にリョーマは振り返り、海堂を見上げる。
「?」
「・・・・・」
いきなり振られた質問に小首を傾げる自分に対し、不意に口ごもりそっぽを向いた海堂にリョーマは遅まきながら質問の意味を悟る。
「気になるんすか?」
リョーマはちょっと笑い、からかうような目でそんな海堂の横顔を見つめる。
「・・・・・」
そんなリョーマの視線が見えているのかいないのか、海堂は不機嫌そうに押し黙ったままそっぽを向き続ける。
「当然・・・と言いたいとこだけど・・・まだっす。」
軽いため息をついて、今までとはうって変わってつまらなそうな口ぶりで言ったリョーマを海堂は意外そうな顔をして振り返る。
「仕方ないっしょ?したいんすけど、いまいちどうしたらいいかわかんないんだから。」
その自分の言葉に心持ち頬を赤らめながらも、どことなく気の毒そうな目で自分を見た海堂にリョーマは口を尖らせる。
「先輩、やり方知ってます?」
「!」
・・・ダメでもともと・・・と聞いてはみたがやはりダメのようだ。ぎょっとしたように自分を見た後、あっという間に自分に背を向けた海堂にリョーマは
やっぱり・・・と言ったように軽くため息をつく。
「・・・諦めるのか?お前・・・」
「?」
ややあって海堂がぼそり、と呟いたのにリョーマは小首を傾げる。
「その・・・やり方がわからなかった場合だ。」
「諦める・・・?冗談!」
リョーマは声を荒げ、挑むような目で海堂を見る。
「その人の事、好きだからしたいんじゃん。絶対しますよ!」
「・・・上手く行くといいな・・・」
そんな自分に対して、そっぽを向いたままではあるがそう言った海堂にリョーマは目をしばたく。
・・・何だか調子の狂う日だ。
海堂に“励まされる”など、考えた事もなかった。
彼はよっぽど難しい人間に恋しているのだろうか・・・などと頭の片隅で考えながら、リョーマは気になっていることを聞いてみる。
「・・・で、する時はやっぱり必要??」
「当たり前だ。」